大判例

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横浜地方裁判所 昭和62年(ワ)1802号 判決 1988年8月18日

原告

増田良一

ほか一名

被告

浅賀眞義

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告らそれぞれに対し、二三三〇万五八八三円及びうち二一二〇万五八八三円に対する昭和六一年一月七日から、うち二一〇万円に対する昭和六三年八月一九日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告らの、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告らそれぞれに対し、二四二〇万円及びうち二二〇〇万円に対する昭和六一年一月七日から、うち二二〇万円に対する第一審判決言渡しの日の翌日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和六一年一月六日午後八時二〇分ころ

(二) 場所 横浜市磯子区岡村八丁目一九番先路上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 加害車 被告浅賀眞義(以下「被告眞義」という。)運転の普通貨物自動車

(四) 態様 被告眞義は、右に湾曲する本件事故現場を走行中、加害車を道路左端の電柱に衝突させ、加害車後部左側座席に乗車していた訴外増田恒雄(以下「恒雄」という。)に脳挫傷の傷害を負わせ、同日午後九時五〇分ころ右傷害により死亡させた(以下「本件事故」という。)

2  責任原因

(一) 被告眞義は、本件事故現場が最高速度を時速四〇キロメートルと指定された右に湾曲する道路であつたから、右指定速度を遵守するには勿論、適宜速度を調整し、適正な進路を保持して進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、右指定速度を超える時速約六〇キロメートルで進行した過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条により原告らの蒙つた後記損害を賠償する責任がある。

(二) 被告浅賀政男(以下「被告政男」という。)は、加害車を保有し、自己のため運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条により原告らの蒙つた後記損害を賠償する責任がある。

3  損害

(一) 恒雄の受けた損害

(1) 死亡に至るまでの治療費 三〇万一一六六円

恒雄は、本件事故後死亡に至るまで磯子中央病院において治療を受け、治療費として右金額を要した。

(2) 逸失利益 三九二九万円

恒雄は、本件事故による死亡当時一九歳の男子であり、本件事故に遭遇しなければ一九歳から六七歳までの四八年間就労が可能で、その間少なくとも昭和六一年度賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計、男子労働者全年齢平均の賃金年額四三万七六〇〇円を下回らない収入を得ることができたから、生活費控除率を五〇パーセントとし、年五分の割合による中間利息の控除をライプニツツ式計算法で行うと、恒雄の逸失利益の現価は次のとおり三九二九万円となる。

434万7600円×(1-0.5)×18.077≒3929万円

(3) 相続関係

原告増田良一は恒雄の父、同増田くらは母で、他に恒雄の相続人はいないので、右(1)、(2)の恒雄の被告らに対する損害賠償請求権を各二分の一ずつ相続した。

(二) 原告らが受けた損害

原告らは恒雄の葬儀をとり行い、次の費用を各二分の一宛負担した。

(1) 葬儀費用 各七六万七六八二円

弘明寺への支払金 四〇万円

葬儀社への支払金 八二万四〇五〇円

霊柩車要員等への心付 一万一〇〇〇円

仏壇仏具購入費 一八万円

葬儀参列者飲食接待費用 九万五三一五円

その他(写真代一万円、日野園一万五〇〇〇円) 二万五〇〇〇円

(2) 慰藉料 各八〇〇万円

恒雄は、原告らの長男であつたもので、本件事故によつて、愛育し将来を期待していた長男を失つた原告らの悲しみと失望は大きい。

被告らは、本件事故について心から謝罪する気持がなく、不誠実であるため、原告らは長男を失つた精神的衝撃を鎮めることすらできないままである。よつて原告らの精神的苦痛を慰藉するには原告ら各自に八〇〇万円の支払をもつてするのが相当である。

4  一部弁済 三〇万一一六六円

原告らは治療費として合計右金額の弁済を受けた。

5  弁護士費用 各二二〇万円

原告両名は、本件訴訟の提起、追行を原告ら訴訟代理人に依頼し、請求認容金額の一割を超える報酬を第一審判決言渡日に支払うことを約したが、右のうち各二二〇万円を被告らにおいて負担するのが相当である。

6  結論

原告らの受けた損害は、弁護士費用を除き各二八四一万二六八二円であるが、本件訴訟では、そのうち各二二〇〇万円を請求することとする。

よつて、原告らは、それぞれ被告各自に対し、二四二〇万円及びうち、弁護士費用を除く二二〇〇万円については不法行為の日の翌日である昭和六一年一月七日から、弁護士費用二二〇万円については第一審判決宣告の日の翌日からいずれも支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  1項の事実(事故の発生)は認める。

2  2項の事実(責任原因)は認める。

3(一)  3項(一)(1)の事実(死亡に至るまでの治療費)は認める。

(二)  同(2)の事実(逸失利益)のうち、生活費控除率、就労可能年数、中間利息控除率は認め、その余は争う。恒雄は死亡当時横浜そごう百貨店内の喫茶店でウエイターとして就労稼働していたものであるから、逸失利益は右稼働による収入に基づいて算定すべきものである。

(三)  同(3)の事実(相続関係)は認める。

4(一)  3項(一)の(1)の事実(葬儀費用)は知らない。

(二)  同(2)の事実(慰藉料)は争う。

5  4項の事実(一部弁済)は認める。

6  5項の事実(弁護士費用)は争う。

三  抗弁(好意同乗による減額)

本件事故は、恒雄が、被告政男の経営する浅賀酒店で就労中の被告眞義を訪れ、貸しレコード屋に連れて行つてくれるよう頼み、被告眞義がこれに応じ、貸しレコード屋に行く途中に発生したものであつて、専ら恒雄のための運行により生じたものであるから、いわゆる好意同乗として、公平の見地から、損害額を減額すべきものであり、その減額の割合は三割を下らない。

四  抗弁に対する認容

抗弁事実は争う。

被告眞義は、恒雄のほか女友達の訴外市川和美、中学同級生の同岩崎久美子をも同乗させて好きなドライブをしている途中で本件事故を発生させたものである。ドライブ開始のきつかけが、恒雄の借りたいレコードを探すためであつたとしても、これはドライブの最初の目的地の決定要因にすぎず、運行の理由としては第二次的なものと考えられる。最初に訪れた磯子駅前ビルの貸しレコード屋から次の上大岡のレコード屋へ向かう際には、恒雄は既に積極的ではなくなつており、被告眞義自身の方が「適当なレコードがあつたら借りよう」と思つていたのである。

第三証拠[略]

理由

一  請求原因1の事実(事故の発生)、同2の事実(責任原因)は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件事故によつて生じた損害について判断する。

1  恒雄の損害

(一)  治療費 三〇万一一六六円

恒雄の磯子中央病院における本件事故後死亡に至るまでの治療費として右金額を要したことは当事者間に争いがない。

(二)  逸失利益 三九二九万円

原告増田良一本人尋問の結果、被告浅賀眞義本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、恒雄は死亡当時一九歳の男子であり、高校卒業後数ケ月間魚屋の店員として稼働した後、喫茶店で稼働していたものであることが認められる。しかし、右各証拠によれば、恒雄は未だ若年であり、喫茶店の仕事もアルバイトであつて、将来の転職や収入増が容易に予想されるから、将来は、賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計・男子労働者全年齢平均の賃金を下らない収入を得ることができるものと推認するのが合理的である。

ところで、昭和六一年度における右の額が四三四万七六〇〇円であることは当裁判所に顕著な事実であり、恒雄は、本件事故がなければ、一九歳から六七歳までの四八年間、右年収を下らない収入を得ることができたもので、これから生活費として五〇パーセントを控除し、年五分の割合による中間利息の控除をライプニツツ式計算法で行うと、恒雄の逸失利益は、次のとおり、三九二九万円となる。

434万7600円×(1-0.5)×18.077≒3929万円(1万円未満切捨て)

(三)  相続関係

原告増田良一が恒雄の父、同増田くらが母であり、恒雄には他に相続人が存しないことは当事者間に争いがない。そうすると、原告らは、恒雄の相続人として、右各損害賠償請求権を各二分の一の一九七九万五五八三円宛相続したものと認められる。

2  原告らの受けた損害

(一)  葬儀費用 各四〇万円(計八〇万円)

成立に争いのない甲第二二号証の一ないし三、同号証の一四、第二三号証の一、二、第二四号証の一、二、第二六号証の一、第二七号証の一ないし四、第二八号証、原告増田良一本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告らは恒雄の葬儀をとり行い、その費用として少なくとも一五三万円を支出し、各その二分の一の負担をしていることが認められるが、そのうち八〇万円(原告ら各自に四〇万円)をもつて本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

(二)  慰藉料 各六五〇万円(計一三〇〇万円)

前認定のとおり恒雄は本件事故により死亡したもので、原告らと恒雄の身分関係、本件事故の内容、その他本件訴訟に顕れた諸般の事情に鑑みると、原告らの本件事故により恒雄が死亡したことによる精神的苦痛を慰藉するためには各六五〇万円をもつてするのが相当である。

3  以上によると、本件事故により、原告らは、恒雄の受けた損害の相続分及び原告ら各自が受けた損害の合計として各二六六九万五五八三円の損害を受けたものと認められる。

三  好意同乗による減額

成立に争いのない甲第一一号証、第一四号証、第一八号証、第一九号証、被告浅賀眞義、同浅賀政男各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、本件事故は、恒雄が被告政男の経営する浅賀酒店で就労中の被告眞義を訪れ、被告眞義運転の車に乗せて貸しレコード屋に連れて行つてくれるよう頼み、被告眞義がこれに応じ、恒雄の他たまたま訪れた訴外市川和美、同岩崎久美子をも同乗させて、最初に磯子駅前ビルの貸しレコード店に行つたが、恒雄の探すレコードがなかつたため、さらに上大岡のレコード店に向う途中で発生したものであることが認められる。

右のような事情及び本件に顕れた諸般の事情に鑑みると、原告らの受けた損害額から二割を減ずるのが相当である。

四  以上によると原告らの損害は、各二一三五万六四六六円になるが、原告らが被告らから合計三〇万一一六六円を受領したことは当事者間に争いがないので、右の二分の一の各一五万〇五八三円を原告らの右損害に充当すると、原告らの損害は各二一二〇万五八八三円になる。

五  弁護士費用 各二一〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告らは、被告らが任意に右損害の支払いをしないので、その賠償請求をするため、原告ら訴訟代理人に対し、本件訴訟の提起及びその遂行を依頼したことが認められ、本件事案の内容、訴訟の経過及び請求認容額に照らせば、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当損害金は、原告ら各自につき二一〇万円と認めるのが相当である。

六  以上によると、原告らの本訴請求は、被告ら各自に対し、それぞれ二三三〇万五八八三円及びうち弁護士費用を除く二一二〇万五八八三円に対する本件事故の後である昭和六一年一月七日から、うち弁護士費用二一〇万円に対する第一審判決宣告の日の翌日であることが記録上明らかな昭和六三年八月一九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度でいずれも理由があるから認容し、その余は理由がないからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 木下重康)

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